2025年3月2日日曜日

向かい風によってドローンの頭が上げるpitching moment に関する論文を読む

 Reduction of the head-up pitching moment of small quad-rotor unmanned aerial vehicles in uniform flow (2018, Hikaru Otsuka, Daisuke Sasaki and Keiji Nagatani, International Journal of Micro Air Vehicles 10-1)

https://journals.sagepub.com/doi/epub/10.1177/1756829317745318

という論文を読んだ。中身は、飛行体に対して向かい風が吹いてきた時に発生するpitch方向のhead up不安定性がドローンのローターの傾きを変えた時にどうなるかを調べている。

さまざまな実験を行った結果として、結論的に、モーターの向きを外側に向けて開くことによってその不安定性を低減できると主張している。

"Based on the experimental results, we conclude that rotor tilting to the outer side reduces pitching moment generation."

私の書いた前の記事の議論と整合的であるので嬉しい。

モーター平面をV型(inward tilt)にするとドローンの安定性は増大するか?

 概要

ドローンのモーター平面をV型に傾けるとより安定するといわれているようだが、理論的には、逆Vにした方が安定することを示す。


本文

あるYouTube動画を見ていたら、モーター平面を内側に傾ける(inward tiltというらしい)とドローンの安定性は増すのだという説明があった。聞いた一瞬はとても納得して、既存の大型のドローンのモーター平面がそうなっている理由がわかった気がした。しかし、理論的に考えて、本当にそうなのかと思った。

自分なりに考えてみた結果一概にそんなことは言えないような気がした。その理由を説明しよう。





図を見て考えみよう。単純化して、AOBで表されるのが、ドローンの機体を一方向から見た状況だと考えよう。機体の垂直方向は、Vで機体は右に少し回転した状態で、傾いている。モーターの平面は、内側に折れるように傾いていて、その傾き角度はβである。
両翼の長さは、それぞれ$l$である。

この状態で、復元力が、このモーター平面の傾きによって発生すれば良いわけである。
面倒なので、一番単純に考えてみる。
(1)機体の中心Oは、固定されている。ただし、自由に画面と水平に回転できる。
(2)機体の片側の重さ$m$は、モーターの場所に集約されている。
(3)モータの上昇力、スラスト$t$は、重さで測られ片側の重さと釣り合っている。
すなわち、$$t=m$$である。
今、A点における力のバランスを見てみよう。
動画では、復元力が発生する理由を、A点では、傾いているせいで、そこにかかる重力に比べて、上昇力が$$t\cos\beta<t=m$$となってしまっていて、下向きの力が大きくなっているからだと説明していた。
だが、それは、傾いているが故に発生する右向きの力を無視している。さらにmが働いている腕の長さも短くなってしまっていることを忘れているのではないだろうか。
そこで、A点において、左向きに回転する力(傾きを復元しようとする力)と、右向きに回ろうとする力(傾きをさらに増大させようとする力)のバランスを調べてみよう。
左向きに回転しようとする力と、腕の長さを掛け合わせたトルクは、
$$(m-t\cos\beta)l\cos\beta$$
である。
一方、さらに右向きに回転しようとするトルクは、
$$t\sin\beta l\sin\beta$$
である、
左向きの回転力から右向きの回転力を差し引く
$$ (m-t\cos\beta)l\cos\beta-t\sin\beta l\sin\beta$$
$$ = ml\cos\beta-tl\cos^{2}\beta -tl\sin^{2}\beta$$
$$ = ml\cos\beta-tl$$
$$ = l(m\cos\beta -t)$$
$$ = lm(\cos\beta-1)$$
$$ < 0$$
(ただし、ここで$t = m $を使っている)
この結果は、安定化するどころか、不安定性を増加させるという結論だ。
どこか、考え方が間違っているだろうか?

簡単な練習問題になるが、モーター平面が、逆に、下に開いたVの形をしていると、安定性が増すようなバランスになることがわかる。式の変形はそのままで良い。ただ、下向きの場合は上の式が負になるのは、復元力が働く、右回転することを意味するからだ。

ここで、もしかすると今までの議論が、ドローンの腕そのものが傾いていることに依存しているのではないかと疑問が湧いてきたので、さらに調べてみた。

次の図のように、腕そのものは傾いていず、まっすぐで、モーターだけが傾いている状況を考えてみよう。
今、モーターの傾きは、$\alpha$で、機体が$\beta$だけ傾いている状況を考えてみよう。他、腕がまっすぐになった以外は、前と同様の条件である。

次のような単純化を行おう。
(1)モーターの傾きと、機体の傾きがちょうど同じになった状態を考慮する
(2)その状態で、B点のスラストと重さのバランスは釣り合っている。すなわち相変わらず、$t=m$を想定する。
この状態で、左回転のトルクが発生すれば復元力があることになる。

ただ、これは計算をするまでもなく、先の機体の腕が傾いている状況の分析で$\beta$を$2\beta$にしただけで、計算過程は同じである。従って、結論も同じである。

機体の傾きが、前のモデルと同じでも、モーターが傾いているだけ、不安定性は増す可能性がある。また、逆向きにモーターが傾いていると、安定性は増加する。

向かい風によってドローンの頭が上げるpitching moment に関する論文を読む

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